スタジオジブリ作品の映画『思い出のマーニー』は北海道が舞台。
主に登場するロケ地は道東・厚岸周辺の、霧多布湿原、藻散布沼などの他、釧路湿原などもモデルになっているそうです。
アニメの冒頭で、主人公の佐々木杏奈は「岸崎別(きっさきべつ)駅」という道東のローカル駅に降り立ち、物語が始まっていきます。
ところでこの「岸崎別駅」とはどこなのか?モデルになったのはどの駅なのか?という点について、マニアックに徹底検証しようと思います。
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もくじ
思い出のマーニーの主人公・佐々木杏奈が旅立つ冒頭シーン
物語の主人公である「佐々木杏奈」は北海道札幌市在住という設定。
杏奈は喘息を患っていて、療養のため親戚の大岩夫妻が住む根室方面の田舎町に赴くところから物語が始まっていきます。
主人公の杏奈が「特急スーパーおおぞら1号 釧路行き」に乗る際に出た発車標。
札幌駅の発車標を見事に描いています。
普通列車の「江別行き」というのがまたリアル。
札幌駅7番線ホームで杏奈を見送る母親。
まさに現在の札幌駅そのままの風景です。
杏奈が降り立った岸崎別駅のロケ地を検証する
主人公の佐々木杏奈が降り立つ道東のローカル駅「岸崎別(きっさきべつ)駅」。
この岸崎別駅という駅名は架空の駅名で実在しません。
とはいえ、駅舎やホームが道東のどこかの駅をモデルにしているのではないか、とも言われています。
実際のところ、どこの駅がモデルになったのでしょうか。
ネットを検索してもこれといった解答が得られなかったので、今回は北海道の駅の専門家にお話を聞いてみることにしました。
駅の専門家に「岸崎別駅」を特定してもらう
お話を伺うのは、北海道の全駅に下車した経験があるという駅の専門家「つちぶた」さんです。
彼に協力して頂き、駅の検証をお願いすることにしました。
つちぶたさんは「つちぶた本舗の全駅訪問の旅」というサイトを運営している駅マニアの方です。
それでは以下、当ブログの管理人「赤レンガ」と「つちぶたさん(以下敬称略)」の会話形式で進めていきたいと思います。
赤レンガ:では、つちぶたさん、よろしくお願いします( ゚д゚)ノ
つちぶた:よろしくお願いします。
赤レンガ:つちぶたさんは「思い出のマーニー」を見たことがありますか?
つちぶた:いいえ。無いです。ジブリ作品は好きですが、紅の豚あたりで止まっていますね。
赤レンガ:紅の豚…ですか…。で、先日テレビで放送された「思い出のマーニー」は?
つちぶた:「江別行き」という表記が出ているという話を聞いたので、駅と列車が出てくるシーンだけ見ました。主人公が駅に下車して、離れたところからは見てません。
赤レンガ:そうですか。では駅の映像は見ているということで話を進めていきたいと思います。
まず前提条件として、岸崎別駅は架空の駅であること、ということを踏まえて頂いて、北海道内に似ている駅があるか?という質問になります。
杏奈が降り立ったホームを検証
赤レンガ:杏奈が「普通列車・根室行き」から岸崎別(きっさきべつ)駅に降り立った場面です。列車はそのまま進んでいったので終点ではないことが分かります。つまり根室駅ではない途中駅ということになりますね。
つちぶた:そうですね。特急が釧路行きで、根室行きに乗り換えているということは、釧路駅から根室駅の間にこの駅が存在するということですね。
赤レンガ:まず最初の杏奈が降り立った場面ですが、このホームだけを見て北海道のどこの駅か分かりますか?
つちぶた:まず、真っ先に思い浮かんだのは江差線の江差駅ですね。すごく似てる。2014年5月に廃止されてしまいましたけどね。
赤レンガ:江差駅というと、道南の?
つちぶた:そうですね。函館から木古内、江差を結んでいた江差線ですね。
赤レンガ:映画の舞台は道東ですから、根室本線じゃないんですか?
つちぶた:ぱっと見た感じでは根室本線には無い雰囲気のホームです。
しいて挙げるとするなら根室駅ですが、ホーム上家(屋根)の高さが根室駅はもう少し高いです。
この岸崎別駅のホーム上家は小さなローカル駅にあるようなやや低めの上家に見えます。
つちぶた:こちらが江差駅のホームです。細かい部分で言えば上家を支える柱が違いますが、雰囲気はかなり近いと思います。
つちぶた:続いて江差駅のホーム出入口部分です。引き戸の部分と壁のタイル、扉上部の電燈が酷似しています。比べてみましょう。
赤レンガ:確かにソックリですね。
つちぶた:ただホームの別視点では相対式ホームなので、ホーム構造は江差駅ではありません。
赤レンガ:根室本線でも似たところはないですか?
つちぶた:無いですね。見た感じだとコンクリートの土台にアスファルト敷のホームですが、根室方面のホームはたいてい砂利敷なんです。こんな立派なホームがあるのは根室駅・釧路駅・厚岸駅くらい。
あと、このホームは点字ブロックが手前のホームと奥のホーム手前側の二箇所にあるので、ホーム構造的に2面3線に見える形の相対式2面2線ですから、この形・この雰囲気の道内の駅はちょっと思いつきません。
赤レンガ:なるほど。よく分かりませんが、こういうホームは無い、ということですね。
つちぶた:釧路~根室間には無いですね。ただホームの雰囲気だけという意味で、しいて挙げるなら、石狩沼田駅が似てるかな?
赤レンガ:石狩沼田駅?
つちぶた:留萌本線にある駅です。
赤レンガ:全然根室と関係ないですね。
つちぶた:しいて挙げるなら、ということです。
つちぶた:これが石狩沼田駅です。点字ブロックは無いですが…。比べてみましょう。
赤レンガ:たしかに、かなりいい感じで似てますね。
つちぶた:2面ホームと奥の緑の雰囲気、上家と駅舎の構造が似てる気がします。
赤レンガ:なるほど。
つちぶた:ちなみにこれは「思い出のマーニー」舞台・厚岸である、厚岸駅のホームです。写真右手が駅舎で、駅舎側のホームを増設したため不思議な形の2面ホームになっています。
ホームと駅舎の間に柵があるのと、奥に跨線橋が架かっている点で全く似ていません。
赤レンガ:たしかに、ホームが二つあるということくらいで、全然似てませんね。
ロケ地はこの辺りなので厚岸駅だと思っていたのですが、ホームは似ていないことがわかりました。
駅舎内を検証する
赤レンガ:杏奈が駅舎内に入って来た時の様子です。
つちぶた:これはもう江差駅そのものですね。以下の写真と見比べてみてください。
つちぶた:江差駅の改札口です。
赤レンガ:似てますね!
赤レンガ:こちらは大岩夫妻が駅に迎えに来ていた場面です。駅舎内の様子がよく分かります。
つちぶた:江差駅の待合室内の写真です。アニメのシーンと同じような出入口方向を見た写真を撮影していませんでしたので、若干別視点になってしまいますが、向かい合ったベンチ、入口側に二列になったベンチの位置、中央に置かれたストーブ共に一致します。
赤レンガ:これはもう江差駅で良いですね。
つちぶた:なにげに床のタイルも一致してますね。
つちぶた:参考に、厚岸駅の窓口です。
赤レンガ:雰囲気は似てなくもないですが、江差駅の方が似てますね。
つちぶた:さらに、先ほど例に上げた石狩沼田駅の駅舎内です。
赤レンガ:停車している列車が思い出のマーニーに出てくるものと同じですね。
つちぶた:窓口の形や外壁が全然違いますが、雰囲気は似たようなものを感じますね。
岸崎別駅の駅舎外観を検証する
赤レンガ:そして岸崎別駅の駅舎外観です。
つちぶた:これも完全に江差駅ですね。
赤レンガ:厚岸駅ではない?
つちぶた:全然異なりますね。たしかにコンクリート駅舎という意味では同じですが、風除室の構造、つまり扉の位置が異なっていますし、駅前の雰囲気も全然違いますね。
逆に江差駅との共通点の方が多い。
まず駅舎が箱型のコンクリート建築風で、風除室は正面に扉が付いている(厚岸駅の扉は風除室の側面である)、駅前ロータリーが小ぢんまりとしている、極めつけは駅前右手にあるコンビニです。
赤レンガ:コンビニ?
つちぶた:ビックリするくらい似てます。というか駅を出て右手にコンビニがあるところって道内では江差駅以外に無いんじゃないかな?たぶん。
つちぶた:江差駅の駅舎です。風除室が三角屋根ではない、塗色が違う、という部分がありますが、駅名看板の位置や外壁のタイルなどは酷似しています。
赤レンガ:これは似てますね~。
つちぶた:江差駅の駅前右手を見た風景です。コンビニが有ります。看板の色とかもちょっと似てますね。
赤レンガ:本当ですね。これは面白い。
つちぶた:ちなみにこの駅前のコンビニ、江差駅廃止直前には別の店になっていました。
赤レンガ:細かい情報ですね。
つちぶた:もう一つ細かい点で言えば、岸崎別駅の駅前のガードレールが気になりますね。
赤レンガ:ガードレール。
つちぶた:北海道は除雪の関係でガードレールが極端に少ないじゃないですか。道東を旅した時も見た記憶が殆ど無いので、ちょっと気になりました。
赤レンガ:たしかに北海道にはガードレールがほとんど無いですからね。
つちぶた:ちなみにこちらが道東・根室本線・厚岸駅の駅舎です。
赤レンガ:あー。これは全然違いますね。
つちぶた:この平屋の駅舎、結構大きいんですよね。屋根は片流れの形で、江差駅は平屋根なので、その点も江差駅のほうが似ているように見える点です。
手前に飛び出ている風除室はたしかに似ているかもしれませんが、この厚岸駅の扉、側面についているんですよ。なので違う。
加えて駅前ロータリーがちょっと広すぎる気がします。
赤レンガ:自家用車やタクシーの量が多いですしね。
岸崎別駅のモデルは道東・根室方面には無かった
赤レンガ:検証の結果、江差線・江差駅(廃駅)が岸崎別駅に最も近いという解答になりました。「思い出のマーニー」のロケ地が厚岸周辺なので、その付近の駅がモデルだと思っていましたが違うんですね。
つちぶた:そうですね。釧路湿原がモデルとも聞いていますが、釧網本線内では似た駅は無いですね。
赤レンガ:そうなると、厚岸町周辺の駅は実際どうなのかが気になったりします。
つちぶた:ではついでなので、物語の舞台となっている「霧多布湿原」にほど近い根室本線の駅を一つずつ見てみましょう。
糸魚沢駅・駅舎
つちぶた:厚岸駅の隣りの駅、糸魚沢駅の駅舎です。ものすごい味のある駅舎ですが、最近取り壊されてしまい、現在は簡易駅舎が立っています。
赤レンガ:見るからに古そうですね。
つちぶた:ホームは単式1面1線なので、この駅には共通点はないですね。
茶内駅・駅舎とホーム
つちぶた:茶内駅の駅舎です。
赤レンガ:カラフルですね。
つちぶた:もとはかなり古い木造駅舎ですね。
赤レンガ:この駅が岸崎別駅のモデルだという話もありますが。
つちぶた:霧多布湿原に最も近い駅なので、そう考えるのが妥当かもしれませんが、明らかにモデルにはなっていないと思います。駅舎も駅前もホームも共通点が見当たりません。
つちぶた:茶内駅ホームです。
赤レンガ:まさに北海道のローカル駅といった感じですね!
つちぶた:砂利敷のホームと緑に囲まれた構内が素晴らしいです。むしろこの駅をモデルにすればよかったのにと思います。
赤レンガ:そうですね。
つちぶた:構内踏切という点も良いですね。ホームも北海道らしい千鳥式ホームです。
赤レンガ:千鳥式ホーム?
つちぶた:通常二つのホームは向かい合っていますが、この駅のホームは向かい合わずにズレた位置にあるのがわかると思います。それが千鳥式ホームです。
赤レンガ:鉄道用語ですね。
浜中駅・駅舎
つちぶた:こちらも霧多布岬などに近い浜中駅です。バスも出ています。
赤レンガ:こう見るとどれもモデルとは程遠い外観ですね。
つちぶた:ちなみに「ルパン三世」の作者であるモンキー・パンチさんはここ浜中町の出身で、それにあやかって最近ではルパン三世のキャラクターが駅に飾られたり、ラッピングバスが走ったりしています。
赤レンガ:アニメで町おこしですね。
つちぶた:最近はやってますよね。
赤レンガ:思い出のマーニーのロケ地巡りでもかなりの観光客が来てるんでしょうね。
最後に
赤レンガ:ずいぶん長くなってしまいましたね。
つちぶた:ちょっと長いですね。マニアック過ぎました。反省してます。
赤レンガ:架空の駅の検証って難しいですが、面白いですね。
つちぶた:面白いですね。私などは駅ばかり見てきたせいで、テレビに駅が映ると「あーこれは何駅だな」とか分かって面白かったり、「これどこの駅?」と気になって悩み始めたりします。
赤レンガ:たいへんですね。
つちぶた:たいへんです。
つちぶた:あとひとつ言い添えておきたいのですが、とりあえず今回の話は、あくまで私が見て感じたまま述べた私見ですので、その点どうかよろしくお願いします。
赤レンガ:というわけで皆様、長い記事にお付き合い頂き、ありがとうございました。
つちぶた:ありがとうございました。