
北海道江別市で保存されている貴重な鉄道車両群「山田コレクション」をめぐる所有権訴訟が、2025年3月26日に和解成立となりました。これにより、長年にわたって懸案だった問題が解決へと動き出しています。
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もくじ
日本鉄道保存協会「会報 2025年6月号」で経緯を公表
2025年6月、日本鉄道保存協会が公式サイトにて「日本鉄道保存協会 会報 2025年6月号」を公開しました(公式ページはこちら)。
その中で、北海道江別市で保存されている「山田コレクション」について、これまでの経緯や訴訟の和解内容、そして今後の保存・活用方針が詳しく紹介されています。
この記事では、同会報に掲載された情報をもとに、「山田コレクション」をめぐる長年の経緯と今後の動きを分かりやすく解説します。
山田コレクションとは?

「山田コレクション」は、江別市の元市議・故山田建典氏が私財を投じて蒐集した、蒸気機関車や客車など十数両にのぼる鉄道車両群です。
中には、4110形や初期の9600形といった明治末期から大正期に製造された文化財級の車両も含まれており、個人所有としては日本一の規模と内容を誇ります。
競売の危機と保存への転機
2010年、山田氏が固定資産税を滞納したことにより、江別市がこの車両群をネット競売にかける方針を固めたことで、コレクションは散逸の危機に陥りました。
日本鉄道保存協会は、病床の山田氏と協議を重ね、協会が滞納税約4350万円を肩代わりして納入する代わりに、山田氏から車両群を無償譲渡してもらうという合意を成立させました。
この資金は篤志家の寄付によって賄われ、2011年2月に納税が完了。以後、「山田コレクション」は日本鉄道保存協会の所有となりました。
訴訟と2025年の和解成立
その後、寄付金を提供した篤志家本人が「山田氏から自分が買い取った」と主張して、所有権確認を求める訴訟を提起しました。
協会は経緯を詳細に説明し、裁判所の理解を得たうえで、2025年3月26日に和解が成立しました。
和解内容の要点は次の通りです。
- 山田コレクションのうち「9615号」と「美唄4号」蒸気機関車を原告が所有し、原告費用で搬出・原状回復する。
- 原告が所有する保管場所の土地建物を、日本鉄道保存協会に無償譲渡する。
- 上記の実施期限は2027年3月31日まで。
協会側は法人格を持たないため登記ができず、公益社団法人横浜歴史資産調査会(内閣府指定・免税団体)が代わりに所有し、保存・活用していく方向で調整が進められています。
江別市民による保存活動「江別煉鉄の会」
江別では、山田コレクションを地域の文化遺産として守る市民活動も進んでいます。
2023年8月、「えべつ1/1会」を前身とする江別煉鉄の会が発足しました。
同会は「1/1スケールの実車を走らせる!」という夢からスタートし、鉄道だけでなく江別の象徴である煉瓦産業や炭鉱とのつながりにも目を向け、産業・歴史・文化が融合したまちづくりを目指しています。
日本遺産「炭鉄港」構成文化財に認定

こうした地元活動の成果もあり、2024年6月、山田コレクションは日本遺産「北の産業革命・炭鉄港」構成文化財に正式認定されました。
これを記念して、江別ではこれまでに2回の「山田コレクション展」が開催され、炭鉄港関連の産業遺産ツアーガイドも行われています。
少しずつではありますが、山田コレクションが地域の誇りとして光を取り戻しつつあります。
まとめ:苦節20年、未来へ続く鉄の遺産
山田建典氏の情熱、寄付者の支援、協会の努力、そして江別市民の協力――。
20年にわたる苦闘の末、ようやく保存と活用の両輪が動き出しました。
今後は、公益社団法人横浜歴史資産調査会のもとで、山田コレクションの恒久的な保存・展示が検討されています。
明治の蒸気機関たちが、再び江別のまちに「産業と文化の記憶」を伝えていくことでしょう。










